「皇帝の燭台(未完作品)」「黒衣の道化師(未完作品)」(横溝正史)

当時の子どもたちはどれほど残念だったか

「皇帝の燭台(未完作品)」
「黒衣の道化師(未完作品)」(横溝正史)
(「横溝正史少年小説
  コレクション④青髪鬼」)柏書房

「これをオーロラ曲馬団の
ジミー松田という人に…」。
難破船の遭難者から手渡された
黄金の燭台。
進は誰にも知らせず、
その言付けを実行する。
しかしその燭台をめぐって
悪人たちが暗躍していた。
東京に帰る進を狙って
列車には…。
「皇帝の燭台」

6月から毎月刊行されている
「横溝正史少年小説コレクション」。
嬉しいことに
未完成作品まで掲載されています。
一作目の「皇帝の燭台」は
「黄金の指紋」の原型作品です。

【主要登場人物】
御子柴進
…黄金の燭台を託される中学生。
鮎沢圭介
…黄金の燭台を邦雄に託す。
 青年紳士。鉄仮面の男。
かおる
…悪人集団の一人。黒衣婦人。
義足の男
…悪人集団の一人。片目のだんな。
一寸法師
…悪人集団の一人。
天運堂
…白髪の老人。

「黄金の指紋」はジュヴナイルでは
珍しい金田一耕助登場作品です。
「黄金の指紋」では野々村邦雄少年が
主人公でしたが、
もともとは探偵小僧・御子柴進少年の
物語だったとは驚きです。
すると「黄金」の天運堂の正体が
金田一でしたので、
本作品の天運堂は、
白髪の老人であることを考えると、
その正体は由利先生という
設定だったのではないかと
考えられます。

残念ながら未完で終わり、
登場人物のほとんどが
名前を与えられないままなのですが、
由利・御子柴ものとして
完成していたならば、
どんな仕上がりになっていたのだろうと
想像が膨らみます。

人混みのクリスマスの街。
息せき切って走り込んできた
二人のサンタクロースの、
一方が他方を縛り上げて
連れ去ってしまう。
映画の撮影のように思われたが、
正体は怪盗・
黒衣の道化師であり、
捕らえられたのは
等々力警部だった…。
「黒衣の道化師」

【主要登場人物】
青柳勇
…中学3年生。有名な博士の息子。
古川太一
…勇の親友。
 一家揃って勇の家に同居。
黒衣の道化師
…神出鬼没の怪盗。
 犯行現場に道化師の面を残す。
 勇の姉・富子の所有する
 ダイヤの首飾りを狙う。
等々力警部
…警視庁警部。
 黒衣の道化師に拉致される。

こちらも冒頭から面白さ満点です。
あの等々力警部が物語開始直後に
拉致されるのですから。
主人公は勇・太一の
二少年と思われますが、
三津木俊助や御子柴進が
登場する予定だったのかどうかも、
今となっては不明です。
なお、この作品のネタは、
「まぼろしの怪人」に
流用されているとのことですから、
そちらを読んで
楽しむことにしましょう。

こんなに魅力的な冒頭部なのに、
「皇帝の燭台」は4回の連載で
横溝病気療養のために絶筆、
「黒衣の道化師」は連載誌廃刊によって
中止となるのです(両作品とも1950年)。
当時の子どもたちは
どれほど残念だったか。

書かれざる「続き」を、
あれこれ想像するのも愉しいものです。
せっかく発掘・掲載された未完成作品、
十分に味わいましょう。

(2021.10.31)

Moritz BechertによるPixabayからの画像
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